靜心 shizugokoro

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『料理集 定番』そして『旅と料理』

朝起きる。
お腹が空いていることはほとんどない。
お腹よ空け、空け、と願いながら洗濯機を回し、掃除をし、草むしりをする。
やることも、その順番にも、日々決まりがあるわけではない。
やらなくてはいけないことと、好きでやっていることが、家事には入り混じっている、と思う。

洋服は朝選ぶ。
たいてい、いつも同じような格好をしている。
洋服が好きでたくさん持っているが、身につけるものは大体決まっている。
いつもの靴下、いつもの洋服。
ほとんどしない化粧も、ほとんど変わらない髪型も、ずっと同じであることが、心地いい。
一方で、長いこと、肌の一部のようにつけていた指輪やピアスは、このところはつけなくなった。
ある日、ふと、必要ないと思ったら、もうずっとなくてもよくなってしまうこともある。

朝、起きてからだいぶ時間が経って、ようやく胃が動き始める。
銅鍋に小さな蒸篭をのせ、食パンを蒸し、トーストを焼く。
朝は、長らく中国茶ばかりだったが、近頃はコーヒーが多くなった。
とびきり濃い目にいれて、たっぷりの温かな牛乳で割る。
暑くなってきたら、冷たい牛乳を小さなグラスに注ぎ、チェイサーにする。
食べるのは、トーストと飲み物だけ。
ごくたまに果物やヨーグルトを食べる。
週末は、気が向くとパンケーキを焼く。
 
昼はほとんど食べない。
おやつもほとんど食べない。
食べるとしたら、果物か、ぬか漬け。
果物はただそのまま、きゅうりのぬか漬けは切らずに手で持ってぽりぽり齧る。
たまにお腹がすくと、菜っ葉を入れたあたたかなうどんを拵える。
夏は冷たい野菜の汁で、そうめんを食べる。

夜は、和、洋、中、日常と旅のはざまで献立を考える。
和ならば、ごはんとみそ汁、ぬか漬けは必ず。
納豆もよく食べる。
おかずはいろいろ、野菜や豆腐や卵が中心で、肉や魚は食べたい日に、思い切り食べる。
どれも大きな器にたっぷりと盛り、それぞれが食べたいものを食べたいだけ食べる。
洋は、イタリアの家や食堂で食べていたような料理を作ることが多い。
スパゲッティも好きだが、手打ちパスタも気軽に作る。
パスタでお腹が満たされたら、野菜をもりもり食べる。
温かい野菜、冷たい野菜。
どちらもとにかくもりもり食べる。
たまに卵や肉や魚も欲しくなるが、粉と野菜、オリーブ油とワインビネガーと塩があれば、たいていの料理はできる。
そして、ふと閃いて庭先に植えているハーブをちぎり、香りをつけると、その日だけの特別な一皿になる。
中は、中国や台湾の旅、とりわけ食堂や屋台、誰かの家で食べたものを思い出して作る。
白いごはんとスープ。
おかずはごはんにのせて、いろいろな味が交じり合うのがいい。
ほかにも、母の作ってくれた料理や、韓国、インド、スリランカ、モロッコなど、訪れた国で出会った料理を、色や香り、時間の流れを、たぐりよせるように作る。

トースト一枚にせよ、幼い頃から食べ慣れた料理や、どこかの国の旅で覚えた料理にせよ、繰り返し作るうちに、私ならこう作る、こう食べる、という強い意志が生まれてくる。
そして、その意志が、ある時、形になり、私の”定番”になってゆくのだろう。
日々、少しずつ揺らぎながら、だんだんと自らの思想となり、ひっそりと、しかし確実に私の生活を支配する。
何かに支配されるのは、あまり気持ちのいいものではないが、自ら築き上げた”定番”に支配されるのは、悪いものではない。

「料理集 定番」、そして「旅と料理」。

春の1日に、手にとって、頁をめくってみて下さい。

細川亜衣

『料理集 定番』 3月16日発売
『旅と料理」 3月31日発売

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2021.03.16